医療現場でスクラブが着られるようになるまでの歴史・変遷
「スクラブ」という名称の制服をご存知でしょうか?
医療関係者の方以外はあまり知らない…という方もいるかもしれませんが、スクラブとは、半袖で襟あきがVネックの医療用白衣のことを指します。最近では医療ドラマでも見かけることが多いですし、ドクターやナースがスクラブを着用している病院も増えているので、「そういえばあれか!」とわかる方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんな「スクラブ」の歴史についてご紹介していきたいと思います。
スクラブの発祥はナース服から!?
スクラブの歴史を語ろうとするならば、外せないもの…それが「ナース服」です。ナース服の起源は中世。教会で神の教えを人々に伝えるシスターたちが、病人やけが人の看護をしたことがはじまりです。昔のナース服は丈が長いものでしたが、それはシスター服の丈の名残りと言われています。ナースキャップも、修道女がかぶるベールからきているそうです。近代看護教育の母であり、1854年に勃発したクリミア戦争で傷病兵の看護にあたり、「クリミアの天使」と呼ばれたナイチンゲール。彼女も丈の長いワンピースに、白いエプロン、そして帽子という出で立ちでした。ナース服の元祖だと言えますが、色味やデザインなどは今の白衣・スクラブとは全く異なっています。
日本の初期ナース服も、ナイチンゲールに近いもの
ナイチンゲールの影響により、日本でも看護婦の養成が始まります。それが1885年と、なんと200年以上も前のことです。看護婦の養成所で着用されていた制服には、なんと「式服」と「平服」の2種類がありました。そのどちらも洋装で、当時では珍しいものでした。いずれもスカート丈は長く、上着を着るなどかっちりした印象ではあるものの、ナース服か?と言われると「まだ遠いな」と感じるデザインです。制服自体の色も白ではありませんし、白いエプロンを上から着用する点においては、ナイチンゲールの影響を受けているようにも感じられます。
「ユニフォーム」として完成されたのは1900年代
日中戦争が開始された1937年、日本赤十字社は「看護救護員」として看護師を派遣します。これは日本で最初の組織的な看護活動とされており、その際に着用していた制服がワンピースタイプのものでした。色も白となり、ナース帽のような帽子もかぶっているため、だいぶ現代の看護師さんに近くなってきたのがこの頃といえるでしょう。しかしまだ袖も長袖、スカート丈も長くなっています。
近代的な白衣は戦後からスタート
戦後になって「保健衛生法・環境衛生法」が制定された影響もあり、綿100%の白のワンピースタイプの白衣が全国的に普及することとなりました。袖は長袖ではあるものの、スカート丈は膝くらいまでになりだいぶ動きやすくなっている印象です。いわゆる「看護婦さん」という単語でイメージ出来る、ナース帽にワンピースタイプの白い白衣…というスタイルが確立されたタイミングであると言えるでしょう。
白衣の進化!デザインや機能性がアップしていく
その後、どんどんと白衣は改良されていきます。1960年代には、ファッションの多様化とともに、ナース服も様々なデザインやカラーのものが生まれていきます。白だけではなく薄いブルーやピンクなどが多く出てきたのもこの頃。また、綿は清潔ではあるものの、シワになりやすかったりとお手入れが大変という側面もありました。そこをカバーするため、ポリエステルなどの化学繊維を使用し、お手入れがしやすい白衣なども発売されるようになりました。1970年代は、パンツスタイルの白衣も登場します。最近では女性の看護師さんでもパンツスタイルの方が多く見かけるほどになりましたが、発祥はこの年代なんですね。なぜこの年代なのかと言いますと、一般的なファッションでパンツスタイルが流行したため。流行もすぐに白衣に取り入れられていたんですね。1980年代には、デザイナーズブランドの流行が白衣にも取り入れられ、さらにデザイン性が高いものや、機能性も合わせて改良された商品が多く出ることとなりました。
1990年代、ついに出てくる「スクラブ」!
ここまでひっぱってきましたが…!ついに1990年代になって登場してくるのが「スクラブ」です。こう見るとまだまだ歴史は浅く、30年も経っていないんですよね。最初にスクラブが多く取り入れられたのはアメリカです。当時アメリカでは従来のナース服へ対する批判が高まっていたそうです。その理由は「ナース服はいかにも医療的な印象を患者に与えるため、緊張感や不安感を高めているのではないか」というもの。確かに、病院でパリっとした白衣をきた看護師さんたちがたくさんいると「ああ、病院に来たんだな…」と思うところはありますよね。そして、「医師や看護師が患者に与えるべきものは【リラックス感】」である、という結論に達しました。患者さんもリラックスすることで自分の痛いところや体の違和感を話しやすくなりますし、それによって医師も適した処置をしやすいと考えました。そこで白羽の矢がたったのが「スクラブ」です。
もっと知りたいスクラブ!その効果とは?
スクラブの語源は「ごしごし洗う」というもの。洗顔フォームなどに「スクラブ入り」なんてありますよね、あのようなイメージです。頑丈な素材が使用されているため、強く洗っても生地が傷みにくいことからきているそうです。本来スクラブは手術着でした。グリーンカラーのイメージが強いですね。そして下は動きやすいパンツスタイル。これまでの白衣スタイルに比べるとずいぶんとカジュアルな印象になります。カジュアルなスタイルになることで患者さんへの緊張感をなくし、病院の雰囲気を明るくする…ということで、最初はアメリカの小児科から始まり、評判はすぐに広まり、アメリカのほとんどの病院で採用されるようになり、日本にも広がりました。また、カラーも白だけではなく紺色やボルドー、水色、オレンジなどカラフルなものが多く、下はパンツ…ととってもカジュアルなスタイルになりました。しかし言われてみると、カラフルなスクラブは華やかな印象になり、白一色で統一されているものよりもやわらかく感じますし、スクラブとパンツというスタイルは話しかけやすく、親しみやすさを覚えます。スクラブは医療というステージで、円滑なコミュニケーションの助けとなる重要なアイテムです。
進化していく医療服。スクラブの先も…?
時代や流行に合わせて変化を遂げてきた白衣。今回詳しく取り上げてはいませんが、以前は当たり前だった「ナース帽」も、今では衛生面や安全面(ナース帽がふいに器具に当ってしまうなど)の観点から廃止している病院が増えています。メディカルユニフォームとして、スクラブが定着してきています。今後も、ニーズに合わせた新しいスタイルが求められ、進化していくでしょう。
(w.k)